ピンクの芍薬

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以前はどちらかというと地味な色が好きでした。選ぶ服も、黒とか茶色とか落ち着いた色のものが多く、いわゆる「女らしい」色の服は、あまり持っていなかったように思います。
思うに20代のころは、そういう色を着ると「女」を主張し過ぎるようで、どこか怖く、また気恥ずかしかったのでしょう。わたしと同じような志向の持ち主は、学生時代、他にも何人かいました(親しくなるのは、そういうタイプの人ばかりだったという話も……)。

それが30代半ばを過ぎた頃から、昔だったら決して選ばなかったような色の服や小物を手に取り、見とれてしまうことが増えました。誰もが認める華やかで「女らしい」色に抵抗がなくなってきたのです。

これはいったいなにかしら。
そう思っていた矢先、実家の母が、わが家へ遊びに来ました。駅へ迎えに行くと、薄いベビー・ピンクのストールを首に巻いています。きれいねえ。思わずそう云ったわたしに、母(60代)は答えました。
「年をとるとね、こういうぱあっとした色がいいの。くらーい服着てたら、ほんとのおばあちゃんになっちゃうでしょ」

なるほど、と心の中でうなづき、そして気づきました。
わたしが年々明るい色に親しみを覚えるようになったのは、もしかして年をとったせいではなかろうかと。年をとることで減っていく生き物としての「明るさ」(エネルギー)を補うため、華やかな色に魅かれ始めたのではなかろうかと。「女らしい」色に抵抗がなくなってきたのも、目減りしつつある「女」を、色で補充するという無意識の戦術をとっているのかもしれません。

もちろんなかには、年をとっても地味めの色で、バシッと格好よく決めている方もたくさんいらっしゃるかと思います。
でもそういった方々のいでたちをよく見ると、ズボン丈がすこし短いとか、シルエットがかなり細身or太めだとか、服を構成するもろもろが、いろいろな意味で普通でない、つまり少しばかりトガっている、ようするに「若い」場合が、ままあるように思うのです。
形か色か。人によって選ぶ戦術はそれぞれのようですが、年のとり方にも、おそらくいろいろな選択肢があるのでしょう。

ちなみに、わたしに関しては、なんと先だて真赤なノースリーブのワンピース(麻)を買ってしまいました。以前ならなかなか選ばなかったであろう派手な色ですが、着ると気持ちが華やぎ、いつもの暗さがいくぶん和らぐと周囲にも(やや)好評です。
年をとるのも、まあ、それほど悪くない。「ぱあっとした」色に魅かれ、先日ついふらふらと買ってしまったピンクの芍薬を見ながら、そんなことを思うのでした。